粗筋
「私の父ですっ」
木場が美馬坂に銃を突きつけたその時、
研究所に陽子、榎木津、関口、鳥口が雪崩れ込む。
美馬坂は陽子の父親であった。
「いい加減にしろっ!」
榎木津は頭を冷やさせるためか、木場を殴る。
なんだなんだと怒りを見せる美馬坂に
榎木津は待ち合わせをしているからここで待て、という。
それでも美馬坂は部屋を出て行こうとする。そこへ―――
―――「回診の時間ですか、教授」京極堂が登場する。
「魍魎退治伺いました」美馬坂は突然そんなことをいわれ、わけが判らぬ。
京極堂は「あんたの所為でここにいる全員が魍魎にあたってしまった」と言う。
全員とは先に来た者、そして弁護士増岡、木場の後輩刑事青木、冴えない刑事福本。
脳髄の事。今回の事件はそれぞれの人間が、脳が事件を見聞きし、そして独自の脳で勝手に考えた結果、それぞれの考えによる事件は絡み合い、そこへ魍魎が湧いた。
それを一つ一つ解き放たねば、それぞれについた魍魎は落ちない。
京極堂はその絡み合った事件を一つ一つ解決していく。
最初の事件、それは加菜子が線路に突き落とされた事件。
「突き落としたのは頼子だろう」京極堂はあっさりそう言い切る。
彼女は加菜子を好いていた、崇拝していたといっても過言ではなかった。
しかし、そんな勝手な崇拝の対象にされてしまった加菜子も実は母親の愛に飢えた
ひとりの少女でしかなかった。しかし頼子はそれに全く気がつかない。
湖を二人で見にいこうとしたその夜、加菜子は突然泣き始めた。
それをみた頼子は納得がいかなかった。完璧なはずの加菜子が何故涙を・・・?
そればかりか、加菜子の首元、背中への境目あたりにはにきびが出来ていた。
頼子は加菜子に酷く絶望した。そして思わず線路に突き落とした。
通りものに憑かれたかのように。
頼子の証言にあった黒衣を着た手袋をつけた男、それは加菜子に影響されて
加菜子が読み始めた文芸誌「近代文藝」のひとつの短編に出てくる男だ。
そのタイトルは「眩暈」。関口巽著である。
そして“天人五衰”は「眩暈」に“羽化登仙”“屍解仙”は
過去に関口が書き、そして「近代文藝」に載せた小説に記載されている。
頼子は加菜子を突き落とした事件の隠蔽に、本意なのだろうか
くしくも加菜子に影響されて読み始めた小説の言葉を使ったのだ。
そして京極堂は事件を遡る。加菜子が悲しみにくれたのは何故か。
ことの発端は柚木陽子が美波絹子になったところからだ。
絹子は銀幕のスターになった。そのおかげで須崎に気付かれてしまった。
須崎は美馬坂のもとで働くが故にその娘、絹子の過去を知っていた。
加菜子が柴田弘弥の子ではないことを。須崎はそれをネタに絹子を強請った。
絹子は加菜子に父親のことを気付かれたくないばかりに要求に応じた。
そして終いには絹子は銀幕のスターの座から降り陽子に戻った。
ここまで沈黙を通して訊いていた増岡は声を荒げる。
加菜子が弘弥の子でないなら遺産を相続する権利などないじゃないか、と。
だから陽子はその話を断り続けた。
加菜子が健康であるうちは遺産など相続させる気は毛頭なかった。
しかし事件が起きた。加菜子は線路に落ち重症を追った。
そして陽子は14年ぶりに医者である父を頼った。
美馬坂は陽子の期待通り加菜子を延命させることに成功した。
が、美馬坂近代医学研究所においては“生きる”という意味は常人のそれとは違う。
研究所を莫大な金をかけ動かさなければ人一人の延命が出来ない。
止まれば加菜子は死ぬ。そして陽子は美馬坂に最後通牒を言い渡される。
今の資金では八月三十一日にはこの研究所は止まる。つまり加菜子は死ぬ。
そうなって初めて陽子は急遽金が必要になった。
加菜子を生かしておくには柴田耀弘の遺産という非常識的な額の金が必要だった。
しかし陽子は増岡に伝えられていた。柴田耀弘の病状が回復している、と。
陽子には時間がなかった。柴田耀弘が死に、陽子が加菜子の代理人として
遺産を相続するのを待っていたら加菜子は間違いなく死んでしまう。
そこで陽子は加菜子を偽装誘拐し遺産を搾取しようと目論んだ。
これが第二の事件。加菜子誘拐事件。
陽子は金を搾取する為にあれこれ考えた。しかしどうにも策がなかった。
妄想で誘拐の脅迫状も作ってみたりした。
その脅迫状は映画の台本を切り抜いただけのちゃちなものだった。
策も何もないのだから当然である。
それを封筒に入れようとしたそのとき―――
木場が突如部屋へ入ってきてしまった。
木場は陽子のもとにあったそれを誘拐予告状である、と捉えた。
陽子の妄想は木場の手によって事態が大きくなってしまった。
陽子は加菜子を実際に誘拐する術も策も持ち合わせていなかった。
が、そこから先は須崎が計画を立てそして実行した。
須崎には美馬坂とは違った生命維持の方法を持っていた。
それを利用し加菜子を誘拐したように見せかけようと陽子に提案したのである。
そこで榎木津が話に介入する。
「判った。機械人間だ。加菜子は治療で機械人間になっていて誘拐するときは折りたたむかなにかして運び去ったんだ!」
京極堂はこれに対して当たらずしても遠からず、というようなことを言う。
美馬坂による治療とは、この研究所全体を作動させなければならない。
美馬坂は常人とは逆の発想、つまり人工臓器を人間の体内に入れるのではなく
人工臓器を人間の外部に作ることで不死を達成しようとした。
そして、その外部の臓器こそこの四角の豆腐みたいな建物なのだ。
加菜子は陽子の提案によってここへ連れてこられ、
すぐに四肢を切断され、不要な臓器を摘出された。
そして加菜子の身体はこの京極堂らが立っている建物となったのだ。
誘拐事件の騒ぎのとき既に“元の加菜子”は匣一つ分ほどの大きさしかなかった。
だから一瞬の間に運び出せたのだ。須崎の手によって。
そこまで訊いても美馬坂は、誘拐には関与していない、
加菜子に行ったのは医療行為であり、なんら触法はしていない、と言い張る。
京極堂は美馬坂のその発言を肯定した。だが、
「しかしあなたの今の患者は殺人犯だ」
それを訊き関口は久保の存在を思い出したかのようだ。
そんな関口に説明するように京極堂は言う。
「さっきから久保はずっとここにいるんだ・・・・ここは久保の中なんだよ」
次回へ。
感想
つ・つ・ついに解決編きた!!!!
事件の結末は急速に終焉を迎えようとしている。
さて、個人的にここは言及のし甲斐があります。
何故なら完成度が高いあまり、原作を読んで思ったことをここで書けるから!
勿論事件の真実についての粗探しじゃあありませんよ!
さて、まず主は残念でした!
主が好きな榎木津の台詞がことごとくカットされてる!
榎木津は例の研究所を見てこういうんです。
「おお、あの四角の豆腐みたいな建物か!」いや〜訊きたかったですね〜。
ただここを入れると研究所の壁に車で突っ込むシーンも描かねばならなくなる。
そうなると、これからの長い解決劇にはマイナスですね。尺的に。
で、ついに始まりました京極堂の事件の“終わり”の為の語り。
まず加菜子突き落としについてでした。
原作とは解決へのアプローチの順序が違っていますね。
勿論全く心配しておりませんよ!
兎に角、頼子が加菜子を突き落とし
重症を負わせてしまったことから事件は始まりました。
加菜子が大怪我をしなければ、事件はなにも始まらなかったのです。
ここの顛末を書くと激しいネタバレになるので自重します。
それがこの物語のすごいところですね。なんせ二人の少女、
とりわけひとりの貧しい少女がひとりの女神に出会い崇拝したことから
全ては始まってしまったわけですから。
アニメスタッフもその意向をしっかり汲み取っていたのではないでしょうか。
だって後半部のストーリーの加速度を観ている今となっては、
1話で頼子と加菜子の出会いをあんなに丁寧に描いていたことが不思議です。
あの二人の出会いが、後に出てくる京極堂という主役を動かす為の
序章であり原点であったわけですからね。
加菜子への絶望、ただそれだけで頼子は突き落としたわけですが、
頼子にとっては“ただそれだけ”ではなかったのでしょうね。
家が貧しく自分は不幸にとり憑かれているくらいには思っていたでしょう。
しかも母親は妙な男と付き合いがある。そんな母親は日に日に老け、
そして醜くなっている。ましてや中学生なんて反抗期真っ只中。
学校には家柄的に釣り合わないクラスメイトばかり、家には醜い母がいる。
頼子には安寧の居場所はなかったんじゃないでしょうか。
そして出逢った加菜子という神々しい存在。
そんな彼女が自分を生まれ変わりだのなんだの言ってくれる。
遂に見つけた頼子の居場所は加菜子の前世であるという地位だったのでしょう。
彼女は頼子にとって完璧だった、完璧でなければならなかった。
もはやそれは信仰心と言っても過言ではなかった。
しかしその信仰心が二人で出かけようとした夜、彼女の涙によって急遽崩れかけた。
そして追い討ちをかけるように首の付け根にできたにきび。
十四歳の年頃の女の子にとってにきびは醜の骨頂だったのかもしれません。
そんなものが加菜子にあってはいけない。自分の来世は完璧でなければならない!
失望か怒りか悲しみか、もしかしたらそのどれでもないかもしれない。
きっと自分でもよく判らない気持ちで加菜子を突き飛ばしたのでしょう。
突き飛ばしたときに偶然電車が来たのか、電車が来るのを待って突き飛ばしたのか、
その辺の時間軸は定かではないので判りません!これ以上は妄想の世界です。
原作には頼子が加菜子を突き落とした際の心境というか動機というか・・・
通りものの推測が何例か記されています。
おそらく次回頼子に話の焦点があたることはほとんどないと思うので、
ここで頼子についての心境を書くと・・・頼子ホント好きです。
たぶんどこがといってもなかなか伝わりづらいと思いますが、
始終病的でそして実は現実的な考え方をしたいたところが。
なんというか色んな面でリアルな少女ですよ、彼女は。
彼女の内面的な部分の多くは京極堂が文中で述べているだけなのですが、
彼の喋りは説得力があるし文章なだけにあれこれ妄想しやすかったんですよね。
京極堂の述べることを実際に頼子が考えていた、感じていたと仮定すると
主的に頼子は超絶好みな十四歳の女の子になるのかもしれません。
なんというか女の子としてではなく人間として、です。少女愛とかじゃなく。
欠点ばかりでいいところなんてほとんどないんだけど、
それが何故か心地いいし、美しいと感じるんですよね。すごく人間らしい。
なんだかよく判らないけど原作でこの部分を読んだとき
頼子がものすごく神秘的に思えてしまったんですよ。
そりゃもう頼子が加菜子を崇拝するような感じで。
惚れた、とはまた違うからなんとも説明しがたいのですが。
たぶん頼子のいない場で京極堂がうまい言い回しでつらつら述べているから
っていうのもあると思います。話途中で頼子が「それは違う!」と
否定していたら、こんなにも熱を上げなかったかもしれません。
で、その頼子が久保という下賎な輩に匣詰めされてしまった、
という事実がそらもう主を激しく揺り動かしたんです。
大事なものを惨たらしく破壊された喪失感がなんとも・・・心地いい。
あ、ちなみに原作では「頼子が犯人だろう」→「頼子の四肢発見」だったんです。
だからこそ衝撃がデカかった。アニメであまり衝撃を受けなかったのは
この順序が逆だったからかもしれません。
なんだか「魍魎の匣」を読んで、観ていたら関口のように
主も魍魎にとり憑かれた気分です。関口が狂いそうになる気持ちがよく判る。
話が脱線しました。
さて加菜子が瀕死の状態になったことで事件は拡がりを見せます。
ここから先は突き詰めれば全て美馬坂幸四郎の所為、と出来そうな感じです。
事件の全貌が明らかになっていないのですべてを言及するわけにいかないのが
心苦しいですが、兎に角彼が天才的な研究者でなければ加菜子はただ死に、
そこで事件は終わっていたはずなのです。
いやいやこれでは美馬坂の研究者としての人格まで否定してしまうか。
正直結末を知っても加菜子を助けようとした美馬坂の行為は主には否定できません。
そうなるとやっぱり木場が陽子の作った脅迫状を勘違いしたことが
事件を拡げた大元になってくるのかなあ。
う〜ん、ここは難しいところですね。
別に真の原因探しはしなくてもいいんですが、
一度考え出すと止まらない、妄想。
まあいいや。ちょっと次回までに樹形図を作ってみよう。面白そうだ。
なんか物凄い中途半端な感じだけど今回の感想はここまでw
事件の全貌が判明しないと書けないことっていっぱいあるね。
来週もぞくぞくと新事実が公開されていきますよ。
絵的にも見ごたえありそうなものが観れそうです。
魍魎の匣が魍魎の匣たる所以は次回最終回で判明するはず。期待!