
葉蔵の外面と内面のギャップの気持ち悪さがもっと見たい。
感想
企画的に面白いことやるなと注目していた青い文学シリーズがついにスタート。
1〜4話 太宰治「人間失格」キャラ原案:小畑 健
5〜6話 坂口安吾「桜の森の満開の下」キャラ原案:久保帯人
7〜8話 夏目漱石「こころ」キャラ原案:小畑健
9〜10話 太宰治「走れメロス」キャラ原案:許斐剛
11話 芥川龍之介「蜘蛛の糸」キャラ原案:久保帯人
12話 芥川龍之介「地獄変」キャラ原案:久保帯人
ナビゲーター兼主演に堺雅人さんを迎え、昨晩「人間失格」の第1話が放送されました。
「人間失格」はとうの昔に読みましたが、当時中学生だった私がどういう気分で読んでいたのか、あまり憶えてないですね。これを機に再読するのもアリだなと思わされる第1話でした。ナビゲーター堺さんが言っていたように今日本で一番読まれている、というのは発行累計部数だと思いますが、小畑氏が表紙を書いてから爆発的に売れたというのは有名ですね。今回のアニメ化の企画も、まあうまいように消費を促すとは思えませんが、なにかのきっかけになる可能性は持っていると思うので、文豪小説ブームの一端を担えるような作品になることを期待します。
さてアニメの内容ですが、第二の手記の後半部分を1話に持ってきた構成でした。葉蔵の「醜い笑顔」がどんなもんか待ち構えていたので、予想外の始まりかたでしたが来週の2話で回想というかたちで子供時代に触れるようです。確かにただ順番に葉蔵の身の回りを追うだけではアニメ化の意義も薄いかもしれませんね。上手い構成だと思います。
有名な一文「恥の多い生涯を送って来ました」から始まった今回は、導入として道徳的に「人間失格」である部分に焦点を当てたといった印象を受けました。短い時間の中で葉蔵の駄目さをよく描いていたと思います。反政府活動に恰好つけで参加し、特高から追われる。そして助けてくれた初対面の人妻女給と情事に至り、挙句心中を図るも自分だけ生き残ってしまうというエピソードは、端的に主人公が「人間失格」であることを印象付けたのではないでしょうか。また葉蔵そういった人間になった経緯というか過去を、彼自身のトラウマのようなかたちで演出していたのも印象的です。このあたりは2話で触れると思いますが、直接的な描写があるのかどうか見ものです。今回の女給とのベッドシーンの動きのいやらしさはかなりエロティックだったので、攻撃的な(TV放送的に)描写をしてくるかもしれません。
原作との相違という点では私の憶えている限りでもかなり存在し、特に入水自殺のシーンはアニメのように詳細に書かれていなかった気がします。個人的にあの場面で、葉蔵が飛び降りることを躊躇ったかのような描写があったのはかなり印象的でした。あの死を前にして怖気づいたような演出は、葉蔵が人間失格であるという印象をぐっと近付けた気がします。ただトラウマ的な映像を断片的に見せた演出は少々過剰だったかなと思いますね。それと幼少期の回想で父親から獅子舞をプレゼントされるというシーンがありましたが、葉蔵の父への恐怖心や、子供ながらの必死すぎるの気回しをもう少し露骨に表現してほしかったかなと。それでもまあ1話では外見的な葉蔵の駄目な部分がよく強調されていたと思うので、次回以降、葉蔵の本性というか原作にあるような気持ち悪い気楽さ、達観とはまた違ったひねくれたものの見方みたいな部分をどうアニメで見せるのか注目です。
絵に関しては文句なしどころかイメージ通りのいい雰囲気を醸していました。昨年マッドが手掛けた黒塚・魍魎の匣をかなり楽しんでみていたものとしては、本当にうれしい出来。今回の「人間失格」に始まり今後もスタッフ的に期待できる面子が揃っているので楽しみです。またキャストは予想以上に堺さんの声当てが葉蔵にあっていて、人の良さそうな外見をしっているからか「女というのはry」の台詞の毒々しさが逆に痛快でした。
個人的に本作のタイトルである「人間失格」の持つ意味は今回のような道徳的に踏み外した面も勿論ですが、葉蔵の内面的な部分の弱さ(それは誰しもが持つものかもしれないし、葉蔵だけが持つものかもしれない)が人間失格たる最大の要素だと原作を読んだときに感じたので、そういう部分をどうアニメで表現するのか非常に興味深いです。クスリを使わなくても十分に狂っている葉蔵の、地を這うような生き様を生々しく表現してくれることに期待します。
次回「お化け」。