感想
「夏のあらし!」がようやく戻ってきた。そんな感想を抱かずにはいられない第9話。
買出しに出掛け、その荷物の重さに潰れそうになる潤に、ハジメが「そんなんじゃあ大事な人だって守れないぜ」という意味合いの忠告をする。ほんの些細なこの言葉が今回のストーリーを大きく膨らめる実に巧い発端。ハジメのいう大事な人というのの中に、潤もしっかり入っていて、「でも優先度下位だけど」というハジメのイジワルに「むぅ」と膨れる潤がすごく可愛い。ちょっと前まで「一人で生きていく」とか言って強がっていたのにね。
もはや定番となった賞味期限切れ食物をタイムトリップで過去へ持っていき(以下略)ネタ。気仙沼産だろうが厚岸産だろうが瀬戸内海産だろうがたった290円の生牡蠣を諦めきれないマスターのみみっちさも相変わらず。勿論食わずに捨てるのは大変勿体ないことだし、生産者への冒涜でもあるが、潤が実に深刻に、わけあり気に言うように牡蠣はやヴぁい笑
ただ今回はマスターに諦めさせるだけに終わらない。やよゐが漬物を熟成させる時間に使うという応用技を考え付く。2期になって加奈子&やよゐの代名詞にもなりつつある漬物がやっとネタとして花を咲かせた感がある笑 ちなみにこのときやよゐはハジメと飛んだ。2話前にマスターと“飛べて”しまったときは「ふしだらな子なのかしら」としょげていた本人だが、その飛びやすい体質を有効活用することに決めたようである。
白菜の漬物やナスの浅漬けを肴にビールを呑むマスターが無性に羨ましくなり、CMの間にビールを取りに行ったのだが、やはりこのアニメは酒を飲めるくらいのアダルティ向けなのかもしれない笑
それから話のネタとして寄生虫博物館が出てきたが、あそこの楽しさは行ってみないと判らない。そして潤がスパゲティを寄生虫に見たて食い気を失くしていたがあれは大げさでもなく冗談でもないふつうの反応だろうと思う。実際私もあそこへ行ってからは当分麺類は食べたくなかった。ちなみに寄生虫がうどんみたいというのは実に的を射た表現で、ほんとにうどんみたいだから見たい人は是非足を運んで麺類を食べられなくなればいいと思う。ちなみに寄生虫博物館にいった代償として食べられなくなるものは、人によると思うけど麺類だけではない……。
また潤と同様に私も驚いたのが「あらしさんは誘われる場所で幸せを計るような人ではない」というハジメの台詞。ハジメには過去に恋愛経験があるのかないのか知らないが、中学一年生にしてこんな台詞を言える男はそうそういないだろう。つーか中一でデートの概念があることさえ驚きなのだが、イマドキはそんなもんかね。まあその辺をリアルと混同する必要はないか。ただハジメがそこまで断言しきれるのも、あらしを信用し、ほとんど自分の彼女であると認識しているからなのでしょう。
以前山城があらしをデートに誘ったときはひどく苛立ったハジメも、大人の階段をのぼりはじめたからか、今回はでんと構え逆に潤が慌ててしまうほどの大きな気構えを見せました。が、映画を見終えてカフェで話をする山城をみて、こういってはハジメに酷ですが山城の大人としての魅力はやはり中学一年生なんぞ寄せ付けないものがあるなと。ここまでほとんど気にしてこなかった山城がかなりいい男でびっくり。「生まれ持った分別の良さ……君は多くを語らないけどね」の一連の台詞が素敵でした。別に口説き文句として用意した言葉ではなく、彼が自然に感じたことや疑問を投げかけただけだとは思いますが、惚れ惚れしてしまいました。杉田さんの奥行きのある演技が山城の大人の雰囲気を非常によく出していると思います。山城はこのギャグキャラばかりの本作で唯一ひとりまっとうな人間ですし、杉田さんもそこを弁えた落ち着いた演技がとてもハマっていますね。
潤からあらしが消えてしまう真実をきいたハジメと、山城とのデートで自分の存在のことを改めて考えざるを得なくなったあらしの衝突。好きだ好きだ忘れない! と山城とは正反対に勢い、若さで責めるハジメも男として魅力満点でしょう。正々堂々と自分の気持ちをぶつけるハジメに対してあらしは過去の経験則からか及び腰で「だと思うよ」の連発。ハジメにとっては「俺だけは違う!」という気持ちだったでしょう。あらしの言う大人像があまりに儚くて、寂しい気持ちにさせられました。あらしがハジメと意気投合できたのは彼女にも彼と似た勢いやノリみたいなものがあったからだと思いますが、60年60回の夏をこれまでに過ごしてきた彼女にとってこの土壇場で守りに入ってしまうことは仕方のないことだったのでしょうか。ハジメが去ってからのあらしの独白をきけば、いくらハジメの気持ちが強かろうが仕方のないことのように思えてしまいます。
次の日も明るくふるまう二人。しかし通じない二人。あらしの最後の「飛べなくなったみたい……」が素っぽくてある種の怖さを感じさせますね。なにはともあれ私の好きな「夏のあらし!」が帰ってきました。どう片付けてくるか、次回が本当に楽しみです。