2009年12月28日

【アニメ】青い文学シリーズ 11・12話 蜘蛛の糸・地獄変【感想】

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感想

「蜘蛛の糸」 

煌びやかな花火と声高らかに笑う民衆の声。まさか「蜘蛛の糸」がこんなふうに始まるとは思ってもみなかったですが、本シリーズにはもはや付きものの“イメージ改変”。そして当然期待度は高まります。

なにぶん原作が極めて短いため、改変せざるを得ないというのも至極当然のことであります。そこで原作にプラスされたのはカンダタの生前、つまりその悪行ぶりを映すことで、その中に彼の唯一の「善い行い」である蜘蛛の命を無闇に奪わない部分をみることができるのですが、それよりも、個人的に面白いなと思ったのはカンダタの死生観です。死をも恐れぬある種の潔さ、こういう俗物とは一線を画す俺様なキャラ作りって最近では簡単に中二病とか言われてしまうけれど、キャラの立たせ方としては私はかなり好きです。死に際にさえ「この格好も意外と疲れるもんで」と皮肉を言える余裕。これは生を全うした人間にしかできない行いなんじゃないでしょうか。ただそれでも寸前で頬に汗を伝わせたり、恐れ慄いて息をとめたような表情で、「それでもやっぱり人間」とでもいうようなカットを入れてくるあたりは、アニメアニメしすぎないキャラ作りで好感ですね。カンダタのキャラデザは原案がもっとも生かされたデザインだったような気がします。生前の彼は兎に角格好良かった。勿論それはアニメの世界だから人殺しや外道が正当化されているから、という前提のもとではありますが。

「地獄」の描写はかなり抽象的で、特に心に訴えかけてくるもののないイメージ映像みたいな印象。綺麗ではあるんだけどね。ちょっと前のdocomoのCMみたいな印象。「地獄」と言われれば絵巻物に出てくるように鬼がいて、血の池があって火が轟々と・・・とそんなありきたりな風景しか思いつかない私にとっては、あまり地獄=恐ろしい・逃げ出したいと思わせてはくれるほどの“地獄”は見ることができず、また、生前あれだけ生にしがみ付かずに人生をまっとうしたと思わせてくれたカンダタが、ああも急変するくらいの負の印象を、地獄に抱くこともできず、ただただ流れる映像を見ていただけ、という感じになってしまいました。

それよりも気になったのがカンダタが磔にされた十字架の前にいたオヤジ。あれは誰だ。
ということで次に続きます。



「地獄変」

世界観が地獄変と繋がっているとは思っていなかったので最後のカットはなんだったのよとちんぷんかんぷんに終わった蜘蛛の糸。上記のオヤジとは誰だったのか。それは地獄変の主人公良秀でした。

蜘蛛の糸の世界観を引き継いでいるため、本作もどこか「俗物に対抗する芸術家」という立ち位置で良秀が描かれていたため、原作の醜く傲慢で偏屈なようすはあまり感じられなかったです。本編前の堺さんの語りからもなんとなく察せられますが「上に何を言われようが自らの芸術を極めんとすることで身を滅ぼすことになる」ということを描きたかったのかもしれません。資本主義、大量生産、大量消費。芸術を金のなる木としてしか見ない、見ざるを得ない現代において、このテーマは現代の芸術ほとんどの分野に通じる反体制的なテーマでしょう。ちなみに少なくとも私は、原作からは一切そんなテーマは感じません。ただ本シリーズに通じる「現代的改変」というものがあるような気がするので、これはこれでシリーズらしい改変とも思えなくもない気がします。まあ全て私の妄想ですが。

見どころはやはり娘が焼き殺されるシーンでしょうか。ただやはりこちらも蜘蛛の糸同様、肝心なところがイメージ映像っぽくて私はあまり好きになれない。芥川の実直な文章をこうやってイメージ的にぼかす見せ方が良い悪いは別として、個人的には受け入れがたい表現方法だったかなと。個人的には白い肌がじりじりと黒く焦げていくさまや、長い髪が灰になり頭皮がむき出しになるさまなど、リアルなグロさを(勿論TV放送コードに引っ掛からない演出で)見てみたかったというのが心残り。まあ燃やされながらも「私を描いて」と気立てのよさをみせる娘の描写はよかったですね。残念ながらそれにしたって父子の絆という部分は描き切れず仕舞いという印象が残りますが。

なんにせよ、良秀は自分の芸術を余すことなく極め、そして燃え尽きたようです。それは彼にとっても焼かれた娘にとっても非常に幸福なことでしょう。シリーズ最後を飾った本作がいわくつきハッピーエンドともいえる終わり方でよかったですね。最後の最後も首を括って自殺じゃ後味悪いですし、希望も何もありません。ときに人間は自分の娘を、命を焼き焦がしてでも突き進まなければならない道がある。ひどく個人的で乱暴な解釈ですが、私には「名作こそ青い」という文言にぴったり符合する解釈がこれくらいしか思い浮かびません。



総括

「名作こそ青い」
う〜んほんといいテーマでした。
アニメを見たことで原作を読み返したくもなったし、アニメ自体大変素晴らしい出来でした。製作・制作が実際にどんな意図を持って臨んだシリーズなのか判りませんが、昨今のアニメではかなり貴重な試みだったのではないでしょうか。100%とはいえないまでも、CMで銘打った「最強クリエーター(でしたっけ?)」という冠が相応しい作品群に充分満足できましたし、是非2期というかまたこういった企画を見てみたいと思います。これで商売的にもうまく行ってくれればいうことなしなのでしょうが、そこを私が心配するのはお節介というやつでしょうか。だってこれを機にもっと小説のアニメ化が増えてほしいんだもの! とりあえずBDは買いたいな〜と思っているのでぜひ第二シリーズに期待しませう。







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written by 亨太朗06:42 | Comment(0) | TrackBack(0) | 青い文学シリーズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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